城壁を崩す兵士
ーーー松明の明かりを頼りながら暗い道を進む。
左手には城壁がある。厚く、高い壁だ。ぼくら兵士のミッションはこの城壁のスキをつき、中にいる敵を追い詰めることだ。一見すると山のように見える大きな壁でも、戦術と戦略しだいで切り崩すことができる。
息を吐き、槍を握りしめ直す。百戦錬磨の軍師が指示を出す。相手に戦略を気取られぬよう細心の注意を払いながら、ぼくは敵と交戦を始めた。城壁を巧みに利用されて苦戦を強いられつつも、見事スキをついて城の一角を奪い取った。
「勝利は我らの手に!!」
兵士たちは武器を高らかに掲げ、雄叫びをあげた。
囲碁について
囲碁は白と黒の兵士が敵の陣地を奪い取り、領土を取り合うゲームだ。ルールはシンプルなもので、数千年に渡って伝えられる世界最古クラスのゲームであり、知的スポーツだ。もとは大陸で占いとして始められた経緯があり、のちに戦術ゲームとして海を渡り、貴族の嗜みとして日本に広まった。今ではプロ制度ができて囲碁で飯を食う「プロ棋士」がいる。
上達の秘訣について最初に伝えておく。たった一つ「誰よりも対局をたくさんすること」だ。シンプルすぎるが、おそらくプロもそう答えると思う。様々な一人練習や勉強方法もあるが、結局は対戦の回数、真剣に囲碁と向き合った長さと密度がものをいう。これ以上語るべきことはないけれど、もし補強として勉強していきたい方は最後まで付き合って欲しい。
ルールは1時間で
ルール自体はシンプルなもので、子どもでも一日あれば覚えられる。まずは経験者のもとで基本を習っておいたほうがいいだろう。ネットでも調べれば教えてくれる人がいるはずだ。入門書を読んで簡単に練習するだけでも、問題なく理解できる。
線上の交点に石を置くことができ、敵の石を囲むと取ることができる。石を取ったり、取られないように陣地を作ることが勝つために必要なこと。そしてできた陣地の大きさを数えて、より大きいほうが勝ち。詳しいことは経験者に習おう。
追記:ルール解説について
囲碁未経験者、ルールがわからないという方はこちらのまとめをどうぞ~
— 囲碁たん@.PC壊れて棋譜ツイート不可 (@igotankiran) 2015年11月28日
【囲碁たんの未経験者のための囲碁ルール説明】https://t.co/Js8DyP9rm6
この本の書籍版で勉強したなあ。懐かしい。
基礎の打ち方は20時間で
ルールを理解して人と問題なく打てるレベルになるのに20時間程度は見ておこう。集中して練習していれば20時間はあっという間だ。人はだいたい20時間でスキルを一つマスターできる。詳しくはこちらの本を参考にしてほしい。ルールに関しても詳しく載っていて、勉強になるはずだ。
人間はおもしろいことに、20時間の練習で単一のスキルを身につけることができる。プロになるには1万時間の練習に打ち込むことが条件だといわれるが、アマチュアの基礎レベルなら20時間もあれば十分すぎる。具体的にはルールを理解して、ハンデがあれば経験の長い人とも対局が楽しめるレベルになるくらいだ。
詰碁、定石、棋譜ならべ
基本となる打ち方を覚えたら初歩の詰碁や定石について学んでみよう。と、もしお持ちでなければ対局や基礎を学ぶ上で必要になる碁盤は持っておくと便利だ。
碁盤は持っておいたほうが上達が早い。安いものなら中学生のお小遣いで買える。いきなり何十万円もする高級なセットを買う必要はないが、それなりに打てるものを買っておく方がいい。このあとに説明する棋譜ならべや定石の練習にも使えて便利だ。
9路盤、13路盤、19路盤といくつかのサイズがあるが、とりあえず19路盤があれば小さいサイズの代用もできる。木でできた碁盤は楽しいが高価なので、自宅で練習するくらいならゴム製のものを使ってもいいだろう。
詰碁
詰碁は局所的な攻防戦を鍛えるのに効果的なトレーニングだ。詰碁をやらずに上手くなることはできない。
まで様々なものがある。自分のレベルに合った本を購入して、電車などで問題を解いてみよう。ぼくは短期間で上手くなるために、詰碁本を手放さないようにしてました。

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定石
定石は「こうきたら、こう返す」という基本の流れのこと。石という字を見ての通り、「定石」という言葉は囲碁から来ている。定石本もたくさん出回っているため、自分のレベルに合わせて読んで碁盤に並べてみるといい。
棋譜ならべ
NHKで日曜日にやってるプロ棋士が囲碁の対局をする番組を見たことはないだろうか。ああいった戦った囲碁の流れを記録したものを棋譜という。棋譜を順番通りに並べることで、囲碁の流れをつかむことができる。
素人目には難しく、ある程度の知識が必要だ。慣れてる人と考えながら研究したりするといい。初心者のうちはとても思いつかない返し方を学ぶことができて、上達の助けになる。気が向いたらやってみよう。
ネット碁
インターネットが普及した今、ネット碁は有効な練習手段だ。遠くに住んでいる友達や、知らない人とも気軽に対局ができる。リアル対局とは違った緊張感を味わえるぶん、かけひきも変わってくる。あくまでもリアル対局の予行演習程度に捉えたほうがいいかもしれない。
アプリ、ゲーム、AI、
すでに古いゲームだけど紹介しておこう。ヒカルの碁シリーズはかなり流行ったし、覚えている人も多いと思う。ぼくはこのゲームでかなり上達できて楽しかった、今はもっと優れた戦略を備えたゲームもあるだろうから新しいものを探してほしい。
スマートフォンのアプリでも優れたAIのものがあふれている。画面が小さいとやりにくいが、遊びとしては十分たのしめると思う。
ちなみに梅沢由香里先生とぼくは同じ誕生日、10/4らしい。一度指導碁の会場でお見かけしたことがあるが、きれいな方でした(*´∀`*)
リアル対局を繰り返す
囲碁は練習量に比例して上手くなる。だからどれだけ囲碁を打つことができたかで実力が決まる。ゲーム碁や詰碁なんかもいい練習にはなったが、実戦を繰り返すことが、一番の近道だった。こういったゲームは決まって量が質に転化する。練習量の多さが初期段階では効いてくる。
定石も棋譜ならべも練習であって実戦ではない。ネット碁が強くても、リアル対局になると実力が発揮できなければ、意味がない。段位認定をすることだって、結局はリアル対局の結果で判定される。
ぼくは学生時代、囲碁部の部長をやっていた。2年半で初段を取るまで、だれよりも多くの実戦を繰り返した。ゲームでの対局もたくさんおこなったが、碁会所*1にも足繁く通った。なによりも部活仲間での対局は数多く行った。リアルでの人間同士での対局のほうが有機的でスリリングだ。上達したいならリアル対局を繰り返そう。
もちろん、なんの練習もなく挑めば負け続けてしまうものだから、詰碁や定石で知識をつけておくことが必要になる。対局を通じて「今日は隅での戦いに負けたのが敗因」などの分析をして、「よし、詰碁を解いてトレーニングにしよう」と練習にフィードバックさせる。対局と練習の車輪をぐるぐる回すような感じだ。
tips
ここからは練習の質を高め、たくさんの対局をこなすためのコツを伝える。当たり前に思えるかもしれないが、当たり前を当たり前以上に徹底していないと上達は遅くなる。短期間でうまくなりたければ意識しておこう。
体の管理
頭脳を支える体が不健康だと思考力は鈍る。へたに詰碁を解くより、体を鍛えたほうがいいくらいだ。対局にはかなりの気力と体力を使う。プロ同士の対局が数日続くと、終わったら体重が数キロ減るようなこともある。筋トレをしてみよう、きっと目の前の相手をビビらせる効果もあるだろう。

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姿勢
プロ棋士はきまって姿勢がいい。プロ棋士の中には着物を着ている人もいるが、着物の帯が骨盤をしめて姿勢をよくするためだ。いい姿勢は脳への血流を増やし、思考力を高める。窮地に立つ時ほど、姿勢をよくして盤面を見渡そう。姿勢をよくするなら、ぜひヨガをおすすめしたい。体が柔軟になると、思考のための血液も脳にめぐりやすくなる。
心構え
なによりも対局を、囲碁を楽しむことだ。楽しくない囲碁は続かないし、上達もしない。どんなものも苦痛よりも楽しさを原動力にして進む。苦痛が重力なら、楽しさは浮力だ。勝ち負けよりも思考を深めていく過程そのものを、楽しめることが最善だとぼくは思う。
ホームをもつ
部活、サークル、碁会所、地域コミュニティなど、なんでもいい。自分の囲碁を打てるホームを持とう。はじめはどこかに所属するのが怖かったり、緊張もする。だけどホームといえる場所で打つことは道場仲間のような関係を作り、競い合って上達していく。どうしても近くにそういった場所がなければネット碁でのコミュニティ探しをしておこう。
格言などに学ぶ
古くから伝わる囲碁の格言がある。鵜呑みにするのは危険だが、有益な教えでもあるので勉強して損はない。囲碁十訣(いごじっけつ)という古くから存在するものは、囲碁だけでなく勝負事の様々な場面でも活きてくる。囲碁を嗜む経営者がいるのも、なっとく。
- 不得貪勝(貪って勝とうとしてはいけない)
- 入界宜緩(敵の勢力圏では緩やかにすべし)
- 攻彼顧我(攻める時には自分を顧みよ)
- 棄子争先(石を捨てて先手を取れ)
- 捨小就大(小を捨て大を取れ)
- 逢危須棄(危険になれば捨てるべし)
- 慎勿軽速(足早になりすぎるのは慎め)
- 動須相応(敵の動きに応じるべし)
- 彼強自保(敵が強ければ自らを安全にすべし)
- 勢弧取和(孤立している時には穏やかにすべし)
まとめ
最後に囲碁を上達させる秘訣を振り返っておこう。まずなによりも「対局をたくさんすること」が第一だ。どんなゲームやスポーツでも練習量がものをいう。そのうえで質を上げる要素が必要だ。詰碁や定石を通じて勝てる打ち方を身につけて、実際の対局に活かしていこう。対局→練習→対局の繰り返しだ。
おまけ
囲碁に詳しいアカウントのおすすめ本なんかも紹介します。
星空のカラス 1 (花とゆめCOMICS) モリエ サトシ https://t.co/Ras1DNpoD4
— 囲碁たん@.PC壊れて棋譜ツイート不可 (@igotankiran) November 2, 2016
少女漫画誌花とゆめに連載された囲碁漫画
え、まだ読んでない?
ヒカ碁の次に読むべきよ
本格派
ヒカ碁と比較して貶める人いるが、多様性と裾野を否定してどうするの…
https://t.co/g1tqVrRu6b
— 囲碁たん@.PC壊れて棋譜ツイート不可 (@igotankiran) 2016年11月2日
大正~昭和の、棋士含む著名人の囲碁に関する随筆集だが、格調高い系より、むしろ文士を中心とした、いわゆる“ヘボ碁打ち”の泥沼に嬉々と浸ったやうな自虐風がめっぽう面白い
尾崎一雄「ボヤキの大岡」大岡昇平「イカリの尾崎」のやり合いが見物
https://t.co/bKWKmgqq3X
— 囲碁たん@.PC壊れて棋譜ツイート不可 (@igotankiran) 2016年11月2日
日本囲碁大系での高川格よりはるかによい分析
“名人中の名人”と評される秀栄の力まず厚みを蓄えてサラサラ勝つ様の指摘だけでなく、諸所の短い字数で簡潔に触れる彼の生涯、人となりから秀甫コンプレックス、 狷介さからの秀哉との確執を活写