「厳しい修行の果てに悟り?そんなのナンセンスだぜ!」
というムーブメントがある時期から起こり始めました。どんなに厳しい修行をしても、いっこうに悟れない。それが普通です。なぜなら、悟りは自然にしているとき、そこにあって感じられるものだからです。
愛する人とオデコをくっつけるとき。朝日を浴びながらコーヒーの香りを楽しむとき。焼きたてのパンをほおばるとき。そこにすでに悟り、サマディはあります。
そういった考え方が生まれてきたため、今のぼくらのように仕事をしながらもヨガを楽しめるようになったのですよ!嬉しいですね!
☑悟りの境地を遠い修行の果てではなく、日常のそばにあると考えて練習をする時代がきた
※紀元後の世界。中世のヨーガです。ハタヨーガ・プラディーピカーなどが登場する13~18世紀前後の話です
ハタ・ヨーガの登場
ハタ・ヨーガは13世紀頃にまとまったとされています。伝説上の開祖はシヴァということになってるのですが、僕はあえてこの説を信じようと思います。なぜって?ロマンですかね・・・
これは僕の視点ですが、ハタ・ヨーガを一言でいうなら「呼吸の調整」ですね。呼吸をコントロールすることで解脱を助けようとするものです。呼吸は命の源から生まれるもの。源に奉仕するようにポーズをとることで、神聖なものを内側に感じることができます。
ほら、ポーズしてるときに気分がよくなったり、なんともいえない甘美な感覚があるときありませんか?それが神聖なものがもたらす心地よさです。徐々に現代のヨガの形に近づいてきました。
☑伝説上の開祖はシヴァ神といわれ、歴史上は13世紀にまとめられました。
「ハタ」の意味
「ハ」は太陽。「タ」は月。男性性と女性性の両方が存在しています。息を吸うこと、吐くことも同じです。与えること、受け取ること。
また、「力」という意味もあります。力のヨーガということですね。
☑「ハタ」は与えること、受け取ること。呼吸そのものを表現している。
ハタ・ヨーガの教典
ハタ・ヨーガの教典についてです。ヨーガ・スートラというものがありますが、これはラージャ・ヨーガの教典でもあります。ハタ・ヨーガのために書かれていないので、アーサナに関することがあまり書かれていません。
ここから紹介するのは、そのあとに生まれたハタ・ヨーガ専門の教典です。ハタ・ヨーガはラージャ・ヨーガ(瞑想)を深めるためのステップであると解説している本が多いですね。
☑ヨーガ・スートラはラージャ・ヨーガの教典。ハタ・ヨーガはラージャ・ヨーガ(瞑想)の準備段階と言われている。
ゴーラクシャ・シャタカ
事実上の開祖、体系的にまとめたのがゴーラクシャ・ナータ(ゴーラクナータ)さんです。原型は8世紀ごろからなんとなくあったんですが、形ある文献にしてまとめたのがゴーラクシャ・ナータさんの時代、13世紀ごろです。彼は『ハタ・ヨーガ』と『ゴーラクシャ・シャタカ』の2冊のテキストを作りましたが、現存は『ゴーラクシャ・シャタカ』のみです。
ちなみにシャタカとは「100」と意味して、100の項目があります。(実際には101とか・・・)ゴーラクシャ・アーサナというポーズも存在していますよね。
☑ハタヨーガの原型は8世紀頃から徐々に。13世紀に形ができた。
ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
16世紀にスヴァートマーラーマが書いた『ハタヨーガ・プラディーピカー』も重要な経典です。18種類のアーサナについて。練習方法。ヤマ(禁戒)ニヤマ(勧戒) についても補足的に書かれています。プラーナヤーマ(呼吸法)の具体的な実践方法や補足的な説明。ムドラーの実践方法。サーマディの説明がされてます。
ちなみにプラディーピカーは灯火を意味します。闇を照らす光です。

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ゲーランダ・サンヒター
『ハタヨーガ・プラディーピカー』のあとに書かれました。それよりもより詳しいアーサナのテクニックが解説されます。チャンダ・カーパーリという作者とが質問し、先生であるゲーランダという人が答えるような形式です。アーサナについて、こんな説明があります。
という感じで、僕らの生活、社会に必要なアーサナは意外と少ないことがわかります。
☑生活に必要なアーサナは意外と少ない。
シヴァ・サンヒター
『ハタヨーガ・プラディーピカー』よりもあとに出てきたのがシヴァ・サンヒターです。思想的な説明が多く、実技的なことはあまり書かれていません。アーサナは4つしか出てきませんからね!
ヴェーダーンタ哲学に基づく宇宙観が解説されます。ここで、ヨーガスートラの二元論と違って、一元論(非二元論)ということがわかります。
☑ハタヨーガはラージャヨーガ(ヨーガスートラ)の哲学と違い、ウパニシャッドなどに近い一元論(非二元論)
ハタ・ヨーガにおけるアーサナ
アーサナの定義がヨーガスートラに書かれています。
「アーサナは安定して心地よいものである」
これだけです。よく「スティラとスッカ」と表現されます。言い換えれば、「ストレスなくリラックスしたまま、適度に力が使えて安定感がある」状態です。
- スティラ:力強い、安定、堅固、スタビリティ
- スッカ:心地いい、快適、ゆとりがある、コンフォート
これを導くのが呼吸です。呼吸なしにアーサナはなりたちません。動きのあるプラーナヤーマ(呼吸法)と表現されます。
形においては、ハタヨーガが成立した時期の教典には詳しいことはほとんど載っていません。正しい方法、正しいポーズがあるわけではなく、先生が学んだことを生徒や弟子に伝えているだけです。なので、「このアーサナはこれが正解」というものがありません。
現在で有名なポーズは、教典にほとんど載っていません。あくまでも教典であって、ハウツー本ではないので当然ですが。4~32個くらいしか載っていません。あまりにもポーズが有名で載せる必要がなかったか、まだ存在してなかったかのどちらかです。
☑アーサナはスティラとスッカがあることが条件
ハタ・ヨーガにおけるプラーナヤーマ(呼吸法)
体を健康にしたり、長寿にする効果があります。現世での利益を許してるタントラの考え方としては正しいことです。タントラについては後で解説します。しかし最終的な目標は、プラーナヤーマ(呼吸法)によって瞑想への準備を整えることにありますね。
- アーサナ
- プラーナヤーマ(呼吸法)
- 瞑想
プラーナヤーマ(呼吸法)は伝統的に、先生から生徒へ丁寧に教えることで伝わるものです。プラーナヤーマ(呼吸法)ができるだけの体ができているのかを判断して、正しいやり方を伝授しないと危険も伴うからです。めまいとか、疲れすぎたりね。
☑タントラ的な考え方により、健康や長寿のために呼吸法をすることも
ハタヨーガで扱われる考え方
厳しい修行の果てに悟り?そんなのナンセンスだぜ!
というムーブメントが起こったという話を冒頭でしましたね。どんなに厳しい修行をしても、いっこうに悟れない。それが普通です。なぜなら、悟りは自然にしているとき、そこにあって感じられるものだからです。(大事だから二回言うよ)
愛する家族と団欒をたのしむとき。夕日を眺めながら読書を楽しむとき。炊きたてご飯に至福を感じるとき。そこに!すでに悟り、サマディはあります!(大事だからね、もう一度)
そういった考え方が生まれてきたため、今のぼくらのように仕事をしながらもヨガを楽しめるようになったのですよ!ありがてえな!
☑出家の修行者のためのヨーガから、在家の家庭持ちのためのヨーガへ。
ハタ・ヨーガとラージャ・ヨーガ
- ハタ・ヨーガ:ヴェーダーンタ哲学と関係がある
- ラージャ・ヨーガ:サーンキャ哲学を背景にしている
ヨーガスートラは二元論で書かれています。ハタヨーガの父、クリシュナマチャリアの伝えたヨガの本質は非二元論です。
☑哲学も出家していく人向けから、在家でヨガを練習できる哲学へ
タントラ思想とその特徴
タントラという思想が生まれました。いままでのヨーガといったら出家して修行の道に入らねばならなかったんですが、タントラという思想が生まれたおかげで普通に暮らしながらもヨガを実践できるようになりました。タントラは非二元論で、ヨーガスートラの二元論とは真逆の発想です。
- 出家せず、在家のまま修行ができる
- より生活に密着した現世利益を願う現実主義
- 生きることや快楽への肯定的な姿勢
- 精神的な至福とともに、健康や長寿も求める
- 精神だけを重視せず、身体も神聖なものとする
- 非二元論(と、僕は習った)
二元論と非二元論では、こういう違いがあります。
- 二元論:出家して厳しいヨガ修行の果てに、幸せを掴む。悟りの境地ははるか遠く。
- 非二元論:普通に暮らしながら、ヨガを練習する。幸せは自分の内にある。悟りはここにある。
☑タントラは非二元論。在家のヨガする人向け。
5つのプラーナ(パンチャ・プラーナ)
体の中にあるエネルギー。5つのプラーナ、パンチャプラーナ。この次に説明する5つの鞘(パンチャコーシャ)では2番目に当たる部分。
- アパーナ:下降する気
- プラーナ:上昇する気
- サマーナ:食べ物をアパーナに運ぶ気、消化
- ヴィヤーナ:アパーナとプラーナをとらえる気
- ウダーナ:食べ物を上下に運ぶ気
5つの鞘(パンチャ・コーシャ)
人間を5つの鞘(さや)のように見る考え方で、ロシアの人形、マトリョーシカみたいなものです。一番外にある肉体の相が刺激をうけると、内側にも少し刺激が入ります。
なので肉体の相(アンナマヤ・コーシャ) と生命エネルギーの相(プラーナマヤ・コーシャ)は影響し合っている関係です。ヨガのポーズが体だけでなく、呼吸を大切にするのも納得。
- 肉体の相(アンナマヤ・コーシャ)
- 生命エネルギーの相(プラーナマヤ・コーシャ)
- 心の相(マノマヤ・コーシャ)
- 知識の相(ジニャーナマヤ・コーシャ)
- 魂、至福の相(アナンダマヤ・コーシャ)
これらすべてを覆う真我、ブラフマンがあります。
☑コーシャという鞘が5つあり、人間はマトリョーシカのようにできていると考える

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3つの身体(シャリーラ)
5つの鞘(パンチャコーシャ)を3つに分類する考え方です。
- ストゥーラ・シャリーラ:粗い部分。
- スークシュマ・シャリーラ:細かな部分。
- カーラナ・シャリーラ:さらに細かい部分。
ちなみにシャリーラは寿司のシャリの語源です。体を意味する言葉ですから、なんか納得ですね。
7万2千のナーディ
体の中を流れるエネルギーの経路をナーディといいます。72,000本あるとされ、めっちゃ多くて理解できません。たぶん、昔の人たちなりに血管やリンパの流れる経路を表現したんだと推測できます。
これらが詰まると不健康になるので、アーサナやプラーナヤーマ(呼吸法)で浄化します。特に重要なものが3本あり、これは覚えてもいいと思います。
- スシュムナー:中央のナーディ
- イダー:陰のナーディ、左の鼻腔
- ピンガラー:陽のナーディ、右の鼻腔
片方の鼻で呼吸をするプラーナヤーマ(呼吸法)がありますが、それは陰陽のバランスを整えるために行ったりします。陰か陽のどちらかに傾きすぎると、不健康になったり、気分が悪くなったり落ち着かなくなります。なので、両方のバランスはよくしておこうねってこと。
☑ナーディの流れがスムーズになることで健康を取り戻す。
3つのドーシャ、6つの浄化法(シャット・カルマ)
アーユルヴェーダという姉妹科学ではドーシャという3つの体質があると指摘しています。詳しいことはアーユルヴェーダの専門家の記事などを読んでください。
- ヴァータ
- ピッタ
- カパ
6つの浄化法(シャットカルマ)は、これらのバランスが崩れた時に行うものです。
- ダウティ:歯や食道、肛門の清掃
- バスティ:直腸の清掃
- ネーティ:鼻腔の清掃
- トラータカ(トラタク):目の強化法
- ナウリ:内臓のマッサージ
- カパラバティ:鼻の通りをよくする、肺の換気量を高める
今の時代、しかも日本ではほとんどやることのなくなった古い習慣です。医学的にも少々危険な方法もあります。ですが、今でも有益なものも一部あり、実践している人は確かにいます。鼻うがい、ジャラ・ネーティなんかは今でも安心してできるものです。
個人的には舌磨き、タングスクレーパーなんかは浄化法としてはオススメしています。シャットカルマには入りませんが、健康維持に最高です。
☑体の浄化法があった。現代では一部の修行者を覗いて実践されてない
ムドラー、バンダ
ムドラーは体を決まった形にして維持することで、体に流れるエネルギーを高めてコントロールするためのものです。バンダも似たようなもので、プラーナというエネルギーを体内に保持する役割があると言われています。
まあ実際は、ムドラーを組んだところで超能力がつくわけではないです。そのかわり、集中力が高まり意識がひとつのことにむきやすくなったりします。忍者が印を結ぶのと同じです。
ムドラー、印を結ぶことでストレスが下がり、集中力が高まることが研究であきらかになっています。体の機能をフル活用することにもつながります。このことは古武術の研究者、甲野先生の書籍を読むといいかもしれません。興味深いです。
☑ムドラーは集中やリラックス効果を生む。体の機能を高めることもある

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バンダはポーズが安定する体の使い方が発揮できるという効果があります。逆立ちや片足だちのポーズで安定感が増します。バンダは自分で入れようと思っても入れられないもので、自然発生的に生じるものです。
☑バンダは自力ではなく、自然と入ることが望ましい。
クンダリニー
ハタヨーガでは人間の持っている潜在エネルギーのことをクンダリニーというそうです。クンダリニーは、とぐろを巻いている蛇を意味します。これが開放されることで至福の悟りの境地へ至ると信じる人がいます。
しかし、クンダリニーの覚醒は特別なものではなく、ヨガの練習にかぎらずに起きるものです。アーティストがステキな楽曲を作るとき、システムエンジニアが素晴らしいプログラムを組んだとき、奉仕の精神でなにかに尽くしたとき、それは覚醒します。
クンダリニーのことをなにか特別なものだと思わないことです。それは僕らの日常に身近なものです。もし仮に、クンダリニーの覚醒を経験して、超能力のような力を持っている人は自分から能力を宣伝しないし、自慢もしません。
下手にそれを開発しようとして自律神経を崩すなんてこともありえます。特別な超能力を身につけるのではなく、普通の人でいることこそ悟りの境地にいるということです。なにも望まない、普通でいようと思えることのほうが、ずっと価値があります。
☑クンダリニーは特別ではなく、身近なもの。
7つのチャクラ
体の中心、正中線に存在するといわれる7つのエネルギーのポイント。それがチャクラです。電車の駅が7つあると思ってください。これらは解剖学的に存在してるわけじゃなくて、当然ですがイメージ的な存在ですね。
ひとつひとつに意味や特徴があり、瞑想のための集中ポイントとしてつかったりします。ときにチャクラを特別なものだととらえ、開放するごとに魂が進化すると思い込んでいる人がいますが、それは幻想ですので注意を。
☑チャクラはエネルギーの駅。イメージして瞑想の対象にする。
マントラ
マントラとは、祈りとか讃歌を意味するものです。師から弟子へ教えられるもので、あまり自分のもとで学んでいない人に気軽に教えられるものではありません。信頼関係ができていないと、教えることが難しいものです。
よくマントラの発音を正しく唱えないと効果はないのかと聞かれますが、別にそういうわけではありません。仏教のなかにもマントラが漢訳されていますが、それだと効果がなくなってしまことになります。
マントラに関しては発音よりも、唱える時の心の状態や集中力が問題なのだと思います。マントラは気持ちを集中させるためのひとつの手段でもあります。マントラのかわりにヤントラやマンダラというようなイラストを使う場合もあります。
重要なのは、マントラを唱える時の集中や気持ちのありようです。もちろん、発音をないがしろにしていいという雑な気持ちではうまくいきませんから、発音も大切なものだと思いながら唱えるにこしたことはありません。
☑マントラは発音よりも、唱える心のほうが大きな影響を及ぼす。
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