生きとし生けるものは、老化という厄介者に極めて緩慢なスピードで追いかけ回される運命にある。
―――と、一昔前まではそう思っていた。
最近は対処方法も明らかになり、厄介者との付き合い方はちょっと変わってきたようだ。
やりようによってはこちらから老化を押しのけるくらいはできるようになった。学術的なコラムを読んだり、自分で対処法を実践していくと多少は押し返すことが可能だとわかった。
老け顔と低音ボイスのせいで30代後半に見られたこともあるこの僕、柏原ゆうたの老化との付き合い方。そして分析と考察。
老化を排除することはできない。けれど適切に向き合えば人間としての深みが増す。それが僕が老化という現象と向き合った一つの答えです。
僕は老化との付き合い方を考えるようになった
まだまだ相対的に見れば若い、いや、同業者の顔ぶれを見ても僕より年下の人は両手で数えられるくらいしかいない。この記事を書いている時点で20代なのだから、当然だ。
だけど、肉体的には老化が少しずつ進行している。極めてわずかずつだけど、老化という現象が始まりつつあるのを感じている。例えば疲れが昔より抜けにくくなったとか、食べ過ぎると胃もたれをするようになったりとか。
顔つきはもともと老け顔だったので10代の頃から20代に見られるくらいだったし、性格は文章を見てもらえばわかるように20代男性にしては硬い印象を受ける。
これからますます深まっていく老化現象にどのように付き合っていくか、ちょっと考え直していこう。
環境要因
まず、老化の大きな原因の一つが環境にある。環境といっても、アメリカに住んでるから早く老化するとかそういうことではない。食生活や習慣によって、どのように暮らしているかが老化を進める一つの要因となっていることが明らかになっている。
また、ストレスが加わることで、細胞や脳の老化につながり、抗酸化作用のダウンになる。抗酸化作用は身体が活性酸素によるダメージを防ぐ大切な要素なんだけど、このあとで解説しますね。
活性酸素
酸素は体に必要なものだが、酸素が身体で使われる中で2~3%は活性酸素になる。本来は細菌やウイルスを排除する有益なものだが、過剰に生産されると正常な細胞も傷つけてしまう。これを酸化ストレスといいます。
活性酸素を生み出すものは、老化を早めてしまう。タバコ、急な激しい運動、紫外線などが原因。
食事の取り方
例えば、サーチュイン遺伝子というものがある。これは空腹時に細胞が活性化して身体を若く保とうというものだ。動物で行われた実験では、腹8分目くらいにとどめた動物のほうが満腹の被検体よりも若々しい状態でいられたというものだ。
適度な運動としてのヨガ
身体が筋肉痛に一気に追い込まれるような運動は、体にとっては激しい、適度を超えた運動ということになる。筋肉痛は、筋肉が普段の能力を超えてしまっていることをしめすサインだからだ。
ヨガはどうか。これは「適度」という言葉が似合う有酸素運動と言える。適度でないなら、それはその人にとっての「ヨガ」ではないということ。なぜなら、ヨガの教典には「ヨガのポーズは安定していて心地よいもの」「ヨガは苦しみ(心の作用)を取り除くもの」という記述がハッキリとされている。
ヨーガスートラ2章、1章を参照
活性酸素の除去、酸素の供給
ゆっくりとした有酸素運動であるヨガには、活性酸素を除去する作用がある。抗酸化作用を高めてくれるということ。
そしてヨガは呼吸とともに行う運動のため、局所的な貧血状態を解消する。局所的な酸欠は、痛みの受容器に信号を送り鈍い痛みを生み出す。
肩こりが原因の頭痛は、こういった酸素不足によるもの。山登りで酸素不足になって頭痛がするのと同じだ。
健康的な肺の機能、姿勢
肺は放置しておくとだんだんと機能が弱くなってくる。加齢にともなって呼吸が浅くなる。僕が呼吸法のセミナーを開催したときに来てくださった80歳を迎える男性がいる。
彼は自分では呼吸をしているつもりでも、非常に浅い効率の悪い呼吸をしていた。姿勢も猫背で見るからに苦しそうだった。
呼吸の換気量
呼吸をしても死腔という換気に使われない余りの空気が生じてしまう。これは150mlほどある。
例えば普通の成人が平常時に呼吸をした場合、1呼吸の換気量は500mlと言われている。これが姿勢の悪さや加齢などが原因で半分まで下がるとどうなるか。
500ー150=350
250ー150=100
同じ酸素を得るためにはより多くの回数、呼吸筋をせわしなく働かせなければいけない。成人が普通に3呼吸すれば1,000mlの空気を得られるのに、衰えてくると10呼吸も繰り返さなきゃいけない。これは大損だ!
こうなると脳は「もっと酸素を!呼吸の回数を増やせ!」と支持を出す。こうなると呼吸筋への負担は大きくなる。
姿勢の影響
姿勢は呼吸を助けたり、場合によっては妨げることになる。猫背で首が前に出ていたり、背もたれに寄りかかるような姿勢では呼吸はビックリするくらい浅くなる。
それは20代でありながら80代のおじいちゃんと同じような状態に陥ってしまう。これはあまりにも体に負担をかけすぎだ。
ちなみに、ヨガの呼吸であるウジャイ呼吸は非常に深く、多くの酸素が取り込める。姿勢がよければ通常の6倍ほど、3,000mlもの空気を吸い込める。
筋肉、関節の柔軟性
筋肉はほうっておくと硬くなる。ということは誰でも実感できることだ。これは筋肉の周りを覆っている筋膜という膜状の組織による影響も大きい。筋膜は動かないでいると身体をギクシャクした状態にしてしまう。
関節の柔軟性が落ちれば、結果的に歩く距離やスピードが落ちたりして運動不足に陥る。筋肉は衰えて、転びやすくなり怪我を引き起こす。こうやって寝たきりの人は生まれてしまう。
若返りホルモン
ヨガのようなゆったりとした有酸素運動のいいところは、若返りに影響するホルモンを分泌させることだろう。DHEAという代謝や免疫力をあげるホルモンのおかげで老化を防ぐことができる。
このホルモンはヨガをやり始めてから6週間、42日ほどで目に見えるレベルで変化が起きる。僕の先生、マークが「7分のヨガを40日続けてごらん。奇跡が起きるよ」と言っていたことがここで証明された。
ストレスの軽減
ヨガは溜め込んだストレスを開放することもできる。人間関係に疲れたココロによい癒しとなる。ゆっくりとした呼吸と動作はセロトニンを分泌させる。ある実験では、深くてゆっくりな呼吸を20分ほど続けた人にはセロトニンの分泌量が変化した。
セロトニンは幸福を感じさせるホルモンで、気圧性の頭痛や欝っぽい気分を和らげることができる。ちなみに日光浴やウォーキングによっても分泌される。
また、脳には疲労物質が貯まるようにできていて、瞑想状態に入ると疲労物質を排除できる。そのため、頭に溜まった疲労を取り除くことができる。
顔ヨガで顔も若返らせる
ここ最近、ちょっとしたスキマ時間ごとに顔ヨガも老化の防止として取り組んでいる。
ある方から顔ヨガの本をプレゼントされたおかげで、非常に楽しく取り組むことができている。匿名の読者様、ありがとう。
僕はこのプレゼントをいただいたときは20歳くらい一気に若返って子供のように喜ぶことができた。
最高のアンチエイジングは喜びだ!!
顔ヨガのいいところは、表情筋を鍛え、たるみやすい顔の筋肉を引き締めてくれる。顔の年齢で言ってもここ半年で大幅に変化した。
例えばこちらの右が19歳のときの僕。左が24歳のときのものだ。顔ヨガをネットで調べて始めたばかりとはいえ、顔つきがまるで違うことがわかる。
そんでもってこれが25歳のとき。顔ヨガを習慣として取り入れてしばらく経ってからのもの。このとおり、19歳の頃よりもシュッとした。・・・ちょっと痩せた?
飽きずに、バランスよく練習できるようにする
顔ヨガのいいとこはヨガマットなどの特別な道具がいらないこと、場所を選ばないことだ。お風呂に入っているとき、エレベーターで一人のとき、パソコンでタイピングしている今!
顔ヨガのコツは、生活の中に歯磨きと同じように溶け込ませることだ。やらないと顔がモヤモヤと重たく感じたらすぐ始める。一人になった瞬間、なにか顔ヨガのポーズをする。これだけ。
ヨガを教える際に心に留めておくこと
僕はヨガを教えている。もうちょっと厳密に言えば、その人の中にあるヨガに気づかせてあげる手伝いをしている。世間一般の見方で言えばヨガ講師ということ。
ヨガを教える際に、自分の2倍どころか3倍の年を生きてきた人生の大先輩を相手にすることも多い。むしろ、教える相手が年下だった事の方が稀だ。
そんな僕が年上ばかりを相手にヨガを教えてきた経験から、どんな人にも当てはまりやすい心に留めておいたほうがいいことを伝えたい。ぜひ参考にしてください。
ヨガという名前を出さずに教えてみる
もし、地方の健康運動教室みたいなものをする場合、あえて「ヨガ」という名前を一切出さない試みをしてみてもいい。そうすると、ヨガに宗教的なイメージや激しい運動という誤解を抱いている人を呼び込める。
例えば長野県茅野市で開催しているイベントのフライヤー(チラシ)はこんな感じでヨガというワードを排除してみた。そしたらヨガに悪いイメージの会った人ですら来てくれて、笑顔で帰っていった。
ヨガ講師の仕事はヨガを正しく広めて人の生活を豊かにすること。ヨガというブランドを宗教のように広めることではないと僕は考えている。もちろん、聞かれたら「これはヨガの呼吸法なんですよ」と詳しく説明する。そこは隠さず、正直に。
簡単なポーズだけにしない
僕と同じハートオブヨガ6期生で池袋のチャコット(Chacott)ヨガスタジオに所属する井上敦子さんは、YOGAYOMUのコラムでこう語る。
「今から練習して出来そうになる」ポーズを丁寧に練習していく。現時点から上を向いていく方向性を大切にしています。
中略
高齢者だからといって、簡単なアーサナだけや座位だけのクラスにはしていません。ヨガスタジオに足を運んでくださるということは、本格的にヨガをしたいという気持ちの現れだと思っているので、出来る範囲内ではありますが、チャレンジしていただくことを大切にしています。
僕も同じ気持ちです。
僕のクラスに顔を出してくれていた、80歳を目前に控えた女性がいました。年齢でいえば僕の3倍でした。彼女はけして簡単なポーズだけで満足せず、ポーズは簡易版ですが半分以下の年齢の人たちとも一緒に練習をしていました。
上述した、「ヨガ」という名前を出さないこととは逆に、ヨガをやりたいと思ってきた人には簡単なポーズばかりにしないこと。一緒に受ける若い人もいるのだから、そこは適度なチャレンジ性とシークエンスの柔軟性をもたせよう。
年上への敬意と、先生としての度胸
これは年上の人に教える経験をもっていないとわからないのですが、最初は年上の方を目の前にすると緊張するんですよね。なにを教えたらいいのか、緊張しちゃって(笑)
ハートオブヨガのワークショップで井上敦子さんとお話したときに「年上の生徒さんに緊張するよね」というお話をした。となりにいた小野洋輔*1さんから
「そんなときは『人生の先輩方をお相手して緊張しておりますが、よろしくお願いします』って敬意を示してみたらどうです?」
というニュアンスの言葉をいただいた。
※細部に関してちょっと忘れたが、ニュアンス的には合ってると思う。
先生として、勇気や度胸をもつこと。同時に年上年下関係なく相手への敬意を示すことが大切なんだろうなと思った。
老化は神聖な現象
ここまでをまとめると
- ヨガが老化に対する抑止力になること。
- 顔ヨガが顔の若返りに役立つこと。
- 高齢者(に限らず)にヨガを教える場合は敬意を示すこと。
ということになる。
老化をネガティブで厄介な現象として表現してきたが、少し視点を変えるととても神聖な現象に思える。自分の体調や具合をより繊細に察知するセンサーを磨くことができるからだ。
できることは少なくなるが、一つのことに集中しやすくなる。体や頭を使わなければ機能が落ちてしまうが、適切に機能させ続ければ人としての深みが増す。いぶし銀の渋さ、深みが人間性として表に現れてくる。
老化はネガティブでありポジティブな、神聖な現象なんじゃないでしょうか?
*1:マーク・ウィットウェルの弟子、日本ハートオブヨガの牽引役として親しまれている